第2章 午後の来客
玄関までの廊下を、二人並んで歩く。
けれど言葉はなかった。
扉の前で足を止めて、
私は自分のサンダルをつま先で引き寄せ、片足ずつつっかける。
足裏に感じる薄い底の感触が、
なんとなく「外に出る」合図のように思えた。
ランダルも、ゆっくりと自分の革靴に手をかける。
ひもはついていない、シンプルなかたち。
けれど履くとき、少しだけ手間取っているようにも見えた。
私はしゃがんで、ドアのすぐそばの小さな置き棚に手を伸ばしながら言う。
「ね、また気が向いたら遊びにきてね」
その言葉に、背後でぴたりと動きが止まった気配がした。
そして――
「……いいの?」
振り返ると、ランダルがこちらを見ていた。
目がわずかに丸くなっていて、声には明らかに嬉しさがにじんでいた。
私はその反応に、つい笑ってしまう。
「もちろん。いつでもどうぞ」
それだけ言って、ドアノブに手をかける。
重たい音とともに扉が開き、外の空気がすうっと流れ込んでくる。
日が落ちかけていた。
光はまだ残っていたけれど、
空気の温度が、室内とはまったく違っていた。
ほんのり湿り気のある風が、足元をなでていく。
私はふと、ランダルの方を見た。
彼は扉の向こうの空を、じっと見上げていた。