第2章 午後の来客
の声は、もう耳に届いていなかった。
ただ光だけが、肌にまとわりつくように降りてくる。
午後と夕方の境目。
部屋の中に、やわらかな金色がゆっくりと滲んでいく。
ランダルは、彼女の横顔を見つめていた。
見ていたというより、もう目が離せなくなっていた。
肩、うなじ、髪の流れ。
指の先まで、目で追って、焼きつけて、
吸い込まれるように、そこにいた。
(……このまま……)
世界が彼女で埋まればいい。
そんなふうに、思っていた。
それが破られたのは、一瞬だった。
「――ね、そう思わない?」
不意に、が振り返った。
目が合った。
真正面から、真正面で、笑いかけられた。
その瞬間、何かが頭の中で“ばちん”と音を立てて弾けた。
夢中で見ていた、
いけない夢のような時間が、
ガラスを割るように砕け散った。
ドキン、と心臓が跳ねる。
違う、これは跳ねたんじゃない。
ぶたれた。
顔面を、感情でぶたれたみたいだった。
見ていた。
ずっと見ていた。
見ていたのを、気づかれた。
笑われたわけじゃない。
責められたわけでもない。
でも――
ちゃんと「目を見られた」。
「…………ッ」
ランダルは喉を詰まらせる。
声が出ない。何も返せない。
は変わらず笑っていた。
いつもの、無防備で、無意識の、優しい笑顔。
けれど、そのやさしさが、今は――
いちばん恐ろしかった。
ランダルはまばたきをした。
目が乾いていた。
なのに、ひどく潤んでいた。
窓の外、まだ日は落ちていない。
けれど、胸の奥には、夕暮れよりずっと濃い影が差していた。