第2章 午後の来客
「しかも即日契約で鍵もらっちゃって。……勢いってすごいよね~」
はそう言って、ケラケラと笑った。
サンダルを脱いだままの裸足が、ソファの上でくいっと動いて、
クッションの縁を指先でなぞっている。
肩にかかった髪がふわっと揺れて、
明るい声が紅茶の香りに混ざって部屋を満たしていく。
気取ったところはなく、構えもなく、
まるで友達に話すみたいに、楽しそうに話している。
本人にとっては、たわいもないおしゃべりの一環なのだろう。
けれど――ランダルの側から見ると、それはもう、まるで別世界だった。
(やばいやばいやばい……)
笑ってるだけなのに、なんでそんなにまぶしいの。
しゃべってるだけなのに、なんでそんなに近いの。
すごく普通そうな話をしてるのに、
なんで頭に入ってこないんだろう。
(あ、返事……)
「……すごいね。えっと……勢い……あるね、さんって……」
声が震えてないか確かめる暇もなく、
ランダルはカップを持ち直しながら、
頬のあたりがじわじわと熱くなるのを感じていた。
真っ白な靴下が床にぴたりと張りついて、
姿勢も変えられないまま固まっている。
(これ……ぜったいバレてる。落ち着けって……いや落ち着けない……)
その一方で、は、無邪気な笑顔のまま続きを話し続けている。
「でもこのあたりってほんとに静かだし、空気もきれいで――
朝起きたとき、鳥の声とか風の音がちゃんと聞こえるの。なんか、それだけで幸せって感じ!」
ランダルの目線が、タンクトップの肩、組み替えた足、
指先、口元、また肩へとさまよって、逃げ場をなくしていた。
(……お隣のお姉さんが……刺激強すぎる……!)
なにもかもが普通みたいな顔をして、
なにもかもが、まったく普通じゃない。
ランダルはカップの紅茶を見つめながら、
そこに顔を突っ込んでしまいたいような、
そうじゃないような、奇妙な感覚に陥っていた。