第2章 午後の来客
私はトレーを両手で抱えてリビングへ戻る。
カップが揺れないように気をつけながら、
ソファ前のローテーブルにそっと置いた。
「紅茶はちょっと濃いめかも。お菓子はこないだのクッキーの残り。
やっぱり、こういうのは焼きたてが一番なんだけどね」
そんなふうに言いながら、私はトレーの上の小皿をテーブルに並べる。
クッキーの焼き目は少しムラがあって、ところどころ割れていた。
けれどそのぶん、手作りらしいあたたかさがある。
ランダルは少し身体をかがめるようにして、
こちらをちらりと見て、それからすぐに視線を落とした。
「お菓子、好きって言ってたよね?」
あくまで軽い調子で、私は紅茶のカップを彼の前へスライドさせる。
「無理にとは言わないけど、よかったら食べて。……私、けっこう頑張って作ったんだから」
小さな冗談みたいに言ってみたけれど、
ランダルの反応は少し遅れた。
彼は指先でカップの取っ手にそっと触れ、
紅茶の表面をのぞき込むようにして静かに持ち上げる。
まだあまり口をきかない彼を責めるつもりはない。
なんとなく、こういう子なんだろうなって、もう分かってきた気がする。
私自身も、初対面の人が家に来るのはあまり得意じゃないし――
でも、こうして静かに時間を過ごすのも、悪くない。
「……ねえ、今度は、なにが好きか教えて。次はもうちょっとマシなやつ、焼いてみるから」
私はクッキーを一枚手に取り、かぷっとかじった。
バターの香りが舌にひろがる。
ランダルはまだクッキーには手を伸ばしていなかったけれど、
紅茶の湯気に目を細めるような仕草を見せた。
その一瞬だけ、少しだけ表情がやわらいだように見えた。