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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第6章 穢れた血、幽かな声



チユは一歩、前に出た。

怒りで手が震えていたけれど、構わずに杖を握りしめる。
声はかすかに震えたが、胸の奥から湧き上がる言葉を、しっかりと口にした。



「……そんなこと言わないで!」



マルフォイが驚いたようにこちらを見た。



「人を、生まれや血で決めるなんておかしいよ。優しさや勇気は、そんなのと関係ない!」


「ふん、何をムキになってるんだ、おまえは――」


「うるさいっ!」



チユの叫びと同時に、杖の先がびりっと震えた。
次の瞬間、マルフォイの足元で芝生が爆ぜるようにぱんっと弾け、泥が跳ね上がった。

マントの裾に泥がべったりとつき、マルフォイの顔が怒りで赤く染まる。



「この……っ!」


マルフォイが睨み返した、そのときだった。


「マルフォイ、思い知れ!」


ロンが怒鳴り、ローブのポケットから杖を引き抜いた。
しかし、彼の杖先からではなく、反対側から緑の閃光が飛び出した。

ロンの腹に直撃し、彼はそのまま尻もちをついて芝生に崩れ落ちた。



「ロン! ロン、大丈夫!?」


ハーマイオニーが叫びながら駆け寄る。
チユもすぐに膝をついて、ロンのそばにしゃがんだ。


「ロン、しっかりして……!」


額には脂汗が浮かび、顔色は青白い。
けれど、ロンはかすかに笑ってみせた。


「……大丈夫、だってば……」


そう答える声は、かすれていた。


チユの手は小刻みに震えた。
それでも、ロンの手をぎゅっと握って離さなかった。

そのとき、頭の後ろでざわりと空気が動いた。



「この野郎……!」

「口を慎め、マルフォイ!」



怒声とともに、双子がマルフォイに飛びかからんばかりに駆け寄った。

兄たちの目は、明らかに“弟を傷つけられた”怒りで燃えていた。
普段はおどけてばかりの2人が、今はまるで獣のように睨んでいる。



「よくも、うちの弟に……!」


その気迫に、周囲の空気がぴりぴりと凍りつく。
けれどその間に割って入ったのは、スリザリンのキャプテン――フリントだった。


「やめとけ、バカ共。試合もしてないのに退場食らいたいのか?」


フリントは両腕を広げてマルフォイの前に立ちはだかる。
その後ろで、マルフォイはやや震えた肩を抱えていたが、次の瞬間、地面に四つんばいになって拳で地面を叩きながら笑い出した。
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