第15章 秘密の部屋
しかし、待ち望んだベルは鳴らなかった。
代わりにマクゴナガル先生の声が、魔法で拡声されて廊下に響き渡る。
「生徒は全員、それぞれの寮に直ちに戻りなさい。教師は全員、職員室へ至急集合してください!」
チユはびくりと振り向き、ハリー、ロンと目を合わせた。
「……また襲われたの?」
「いまになって!?」ロンの顔が青ざめる。
「どうしよう、戻る?」半ば縋るように言った。
チユは拳を握りしめて首を振った。
「だめだよ、はやく先生達に伝えなくちゃ……」
ハリーはすでに周りを見回していた。
左手には、古びた洋服かけにぎっしりとかかったマント。
「隠れよう」ハリーが囁いた。
「先生たちの話を聞くんだ。それから僕たちの発見を伝える」
「隠れるって……ほんとにやるの?」ロンが情けない顔をする。
「やろう」チユはため息まじりに笑った。「男の子が怖気づいてどうするの」
マントの隙間に3人は身を押し込んだ。
かび臭い布が鼻をくすぐり、チユは小さくむせそうになった。
頭の上をドタドタと大勢の足音が行き過ぎ、やがて職員室の扉が勢いよく開く。
布の間からのぞくと、先生方が次々と入ってきた。
おびえた顔、困惑した顔――誰1人として落ち着いている者はいない。
そして、マクゴナガル先生が現れた。
唇をこれ以上なく固く結び、声を震わせながら言った。
「……とうとう起こってしまいました」
空気が凍りつく。
「生徒が1人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』の中へ」
「な、なんですって!?」フリットウィック先生の甲高い悲鳴が響く。
スプラウト先生は両手で口を覆い、スネイプは椅子の背を白くなるほど強く握りしめた。
「なぜそんなに断言できるのです?」スネイプの声は低く鋭い。
マクゴナガル先生は苦しげに目を閉じ、吐き出すように言った。
「――『スリザリンの継承者』が、また伝言を残したのです」
チユの背中を冷たい汗が伝った。
布の影で、ロンがかすかに息を呑む音が聞こえる。