第15章 秘密の部屋
ハリーが気づいたように顔を向ける。
「ジニー、どうしたの?」
ジニーは答えず、テーブルを端から端まで眺め回した。怯えた瞳の奥に、何かを隠しているように見えた。
「言っちまえよ」ロンがジニーを促した。声は柔らかいが、その視線はじっと妹を見つめていた。
チユは唇をきゅっと結び、ジニーの肩を小さく叩いた。
「……わたしたちに話して。どんなことでも、きっと一緒に考えられるから」
ジニーはかすかに震える唇を噛み、視線を落とした――。
「あたし……言わなければいけないことがあるの」
その目はハリーを避け、テーブルの模様ばかりを見つめている。
「なんなの?」と、ハリーが身を乗り出す。
ジニーは唇を開いたが、言葉が形になる前に宙で止まってしまった。
かすかな震えが、彼女の肩から指先まで走っているのがわかった。
「いったいなんだよ?」ロンが食器を乱暴に置き、妹を急かすように言う。
ジニーは深呼吸をひとつした。
その表情から、ようやく覚悟を決めたのだとチユは感じ取った。
「『秘密の部屋』のこと……?」ハリーが声をひそめる。
「何か見たの? それとも誰かがおかしな行動をしてるとか?」
3人の視線に押され、ジニーは小さくうなずきかけた。
その瞬間だった。
「ジニー」
パーシーが現れた。
げっそりとした顔に疲れをにじませながら、テーブルの空いた席を指差す。
「食べ終わったなら、席を譲ってくれ。巡回の見回りが今やっと終わったんだ。腹ペコでね」
ジニーは電流に打たれたみたいに跳ね上がった。
怯えた目を兄に向けると、そのままスカートの裾を掴んで逃げるように食堂を出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと!」チユは思わず手を伸ばしたが、ジニーの背中はもう人波に紛れて消えていた。
胸の奥がひりつく。
――今、あの子、何か大事なことを言おうとしたのに。