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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第12章 秘密の日記



「マートル……?」チユがそっとつぶやいた。

「今度は何があったんだろうな、あいつ……」ロンが言いながら、トイレのほうを見た。

「……行ってみよう」
ハリーが先に立ってローブの裾をまくり、水の上を慎重に歩いていく。


ロンがそれに続き、チユは小さく深呼吸をして、ちょこんと足を踏み出した。水音を立てないように、まるで幽霊に近づくようにそろりそろりと歩く。


「故障中」の札がかかったドアを開けると、きいっという高い音がして、ひやりとした空気が中から押し出された。


その先で――便器の上に座り込み、マートルが肩を震わせて泣いていた。
けれど、いつもよりも、泣き方が――もっと鋭くて、刺すようだった。


「マートル、大丈夫?」
チユがそっと声をかける。けれどマートルはすぐには振り向かなかった。
た。


「……誰なの?」
顔を上げたマートルが、うっすらと涙の浮かんだ目でにらむようにこちらを見た。
「また……私に何か投げに来たの?」



「そんなわけないよ」
ハリーが水たまりをよけながら、そっとトイレの小部屋に近づいていった。
「どうして僕たちがそんなことすると思うの?」


「私に聞かないでよ!」
マートルはぶわっと感情を爆発させ、目の前の水をバシャッと散らした。
彼女の影が床を走り、そのたびに水面がざわざわと揺れた。


「私、誰にも迷惑かけてないのに……ここで、静かにしてるだけなのに……それなのに本を投げつけて、笑うのよ!あの子たち、私のこと、面白がってるのよ……!」


チユは胸がぎゅっとなった。マートルの声があまりに哀しげで、怒っているというより、ひどく孤独で。
チユは何か言いたかったけれど、言葉が見つからず、そっと袖をぎゅっと握った。

まるで、昔の自分を見ているようだ。



「でも、ぶつけても痛くないでしょ?」

ハリーが口にした言葉は、もっともだったはずなのに、次の瞬間、それがとんでもない間違いだったことを全員が悟った。


「そうよね、そうよね!マートルに本をぶっつけよう!どうせ感じないんだから、いいよね!腹に命中で10点、頭を通り抜けたら50点!ねえ、楽しいでしょ!? ハ、ハ、ハ!どこが愉快だっていうのよっ!!」


マートルは宙に舞い上がって、トイレ全体がびしゃびしゃになるほどの水をまき散らした。
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