第2章 2
◇
───ふわり、と煙草の匂いがした。
目を開けると、私はyasuさんの腕の中にいた。
「yasu…さん…?」
驚いて小さく呟くと、耳元でふっ、とyasuさんが笑ったのが分かった。
「……yasuさん…?」
「良かった」
「え?」
「彩夏が、マネージャーを辞めたいんやないかって、ずっと…ずっと…不安やったんや」
思わず私は目を丸くする。
yasuさんは私を抱き締めたまま、ポツポツと小さな声で話し始めた。
◆
「彩夏は…『自分は迷惑をかけてばっかり』って言うたやろ?…そんなこと、あらへん。あるわけない。───彩夏がおるから、俺らは頑張れるんや」
「え?」
「確かに俺らは、多くの人に俺らの曲を聴いてほしいと思っとる。でも、彩夏がマネージャーになってからは、一番真っ先に彩夏に曲を聴いてもらいたい、彩夏の笑った顔が見たい……そう思うようになったんや」
「…!!」
「せやから、彩夏が本来の仕事が忙しくなってこっちに来られなくなって、『彩夏は仕事の掛け持ちに疲れとるんちゃうか?』って気付いたとき、不安になった……。……いつ、彩夏が『マネージャーを辞める』って言ってくるか…」
◇
私はビックリし過ぎて何も言えずに固まったまま、ただyasuさんの言葉を聞いていた。
「彩夏が『マネージャーを辞める』って言ってきたら、俺らは『辞めるな!!』って言うことは出来ん。……彩夏が自分で決めた、彩夏の意思やからな。『辞めないでほしい』って言うことは出来るけど、強引には引き止められん。
────けど夕方、彩夏が西條に電話して来た時、その不安でいっぱいになってな、気が付いたらスタジオ飛び出して高速にのって、車飛ばしとった」
ぎゅ、とyasuさんの腕に力が入る。
「ずっと不安やったから、彩夏の言葉が聞けて…彩夏のホンマの気持ちが聞けて、めっちゃ安心した」
そう言うと、yasuさんははぁ、と息を吐いた。
───信じられない、いくつもの言葉。
私が呆然としていると、yasuさんは体を離して私の顔を覗き込んだ。
「彩夏…鼻赤くして泣くほど、俺らのことを想ってくれて、ありがとうな」