第1章 1
◇
──18:50
「う~ん!!疲れたー」
「お疲れ、滝本」
大きく伸びをした私に、同僚の坂本さんが笑いながら声をかける。
「今日も残業?」
「そうなんですよ。鈴木さん、入院中ですから…」
「大変だね」
「大変です……坂本さん、手伝ってくれません?」
「絶対イヤ。」
それから、「手伝ってあげたいけど、ゴメンこれからデートなの」、と私に手を合わせながら言って、坂本さんはフロアを出ていった。
その後ろ姿を手を振りながら見送って、私はふぅ、と息を吐いた。
入院中の同僚の仕事が、なぜか私に転がってきて、最近は会社を出るのが専ら23時。
ギリギリ間に合う終電に乗って、アパートに着くのが大体0時頃。
……とてもハードな毎日。
『彼等』のマネージャー業も、もう1ヶ月半くらい行ってない。
今週末も仕事が入っているから、上京出来そうにない。
「………」
私はケータイのアドレス帳を開いた。
◆
──19:03
「はい、もしもし?─あ、滝本?」
スタジオでの作業中、マネージャーの西條のケータイが鳴った。
電話を取った西條の口から出てきた名前に、メンバー全員が反応して西條を見る。
「「「「「彩夏か!?」」」」」
無理もない。
最近、俺達の口癖は「彩夏はいつ来るん!?」だったから。
アシマネの彩夏は、最近本業の仕事の方が忙しいらしく、もう1ヶ月半くらいこちらに来とらん。
そんな彩夏から電話があったとすれば、反応するのは当たり前やろ。
「今週末?うんうん──、ん?そうだなぁ──それなら──うん、分かった。それじゃあまた、来れそうだったら連絡くれる?」
西條の言葉から、彩夏が今週末も来れないと言うことが分かり、期待混じりの笑みを浮かべていたメンバーが一気に肩を落とすのが分かった。
───もちろん、俺も。
「彩夏、今週も来んのかい」
「え~…寂しいなぁ…」
「仕事、忙しいんやって?…そらしゃあないわ」
メンバーはそれぞれの気持ちを口にする。
スタジオはすぐに暗い雰囲気に包まれた。
「───俺、帰るわ。」
俺は近くにあった上着を掴んで立ち上がった。