第9章 たべられたひ
朝の光が差し込む廊下の先で、ぬるりと何かが動いた。
私は、そこに立ち尽くしていた。
ナナだった。
細長い身体を床に這わせて、くんくんと空気を嗅ぐように進んでくる。
蛇のようにくねるたび、ぬめった鱗が光を帯びてきらりと光った。
食堂へ向かう途中の、いつもなら誰も通らない廊下。
ナナはどうやら、床下を通っていたらしく、目の前の通気口からぬるんと出てきたのだった。
「……おはよ」
声をかけようとした瞬間、ナナの頭部がくい、とこちらを向いた。
目が合った……気がした。
ほんの一瞬、空気が変わる。
ふわり、とナナの口が開いた。
そのまま、私の足元まで這い寄ってくる。
重い体が床をすべるたび、空気が揺れて、音がすべて消えた気がした。
そして――
ぱくん。
何かが、喉奥に引きずり込まれるような感覚。
柔らかい舌の上に乗せられ、のどの奥へと滑っていく。
瞬きをする間に、光が消えた。
口の中は暗くて、ぬるぬるしていて、息が詰まるほど熱い。
柔らかく締めつけられる。
声を出そうにも、空気が足りなかった。
私は、ナナに――たしかに丸ごと、飲まれていた。