第2章 まどろみのなかで
目を覚ますと、私はいつも通り、ランダルの腕の中にいた。
細くて柔らかい腕が、背中を抱え込むように絡みついていて。
顔を少し動かせば、彼の胸のあたりに当たってしまうくらいの、狭くて小さな空間。
棺桶の蓋は少しだけ開いていて、差し込む光が彼の頬や髪をうっすらと照らしている。
呼吸は静かで、体温はぬるいくらいに穏やかで。
でも、このぬくもりは、よく知っているものだった。
あの夜。屋敷に来て間もなく、不安でたまらなかった私は、自分から彼の棺に潜り込んだ。
驚いたような声で、
「えっ……きみ、こっち来ちゃったの?」
と笑いながら、ランダルはすぐに私を迎え入れてくれた。
「へんなの。……でも、まあいいか。きみ、ぬくくて気持ちいいし」
そう言って、腕を回してくれたあのときの感触は、今でも覚えている。
その夜から、毎晩こうして眠っている。
少しだけ動いたまつげに気づいた。
目を細めて見ていると、ランダルがゆっくりと目を開ける。
「ん……、起きたのぉ…?」
まだ眠たげな声だったけれど、口元にはいつもの笑み。
「ふふ……きみって、ほんっとにかわいいなぁ」
目が合うと、ランダルの手が動く。
髪を指ですくって、頬を撫でて、鼻筋をなぞって、まるで猫でも愛でるみたいに、私を優しく触る。
「朝からこんなにおとなしくしてるなんて、ほんとえらい……なでなで……」
私はただ静かに、彼の手を受け入れる。
何も言わないまま、そっとまぶたを閉じた。
「……きょうも、ずっと一緒にいようねぇ、」
ランダルが棺の蓋に手をかける。
ぎ、と軋む音とともに、朝の光が私たちを包んだ。