第6章 おしえて、るーさーさん
朝、出発の時間になっても、ランダルはなかなか玄関から離れなかった。
「……ほんとに、ほんとに、ほんとに大事にしてよ?は、すっごく繊細なんだから……」
靴を履いたまま、じっとこちらを見上げている。ぎゅっと握られた手には、まだ少し未練が残っているようだった。
「ちょっとしたことでも、びっくりしちゃうかもしれないし……すぐに疲れちゃうし……甘やかしてあげてね……ちゃんと……ちゃんと、やさしく、やさしく……」
ルーサーは言葉には返さず、そっと手を伸ばしてランダルの襟元に触れた。
指先でわずかにずれた襟の角度を整え、胸元のボタンを指で軽くなぞるように確認する。
肩に落ちた小さな繊維を払うと、金属の指輪をはめた手が、ほんのわずかに光を弾いた。
「……まかせなさい。大事に、かわいがるよ」
その声は変わらず、静かで、感情の波を一切含まない。けれど、それでもランダルはようやく小さく頷いた。
「……ほんとに、ほんとに頼むよ……兄さん。行ってきます」
名残惜しそうに振り返りながら、ランダルは玄関をあとにした。
その姿が見えなくなると、私はそっとルーサーの手に触れた。
ルーサーは振り返り、少し首をかしげただけで、なにも聞かずに私を抱き上げた。
そのまま、運ばれていく。