第10章 ゆめのせかい
カタン──椅子の脚が床を鳴らした。
目を開けると、目の前に広がっていたのは、知らない教室だった。
木の机と椅子が整然と並び、窓の外は淡い白一色に霞んでいる。
私は制服のような服を着ていて、いつの間にか座っていた。
隣の席には、セバスチャンがいた。
「……起きたか」
ぼそりと低く、気の抜けたような声。
「ここはランダルの夢だ……いや、違うな。“俺たちの夢”ってやつだ」
私は机の上を見る。
そこには、ぼやけた文字の書かれた教科書が置かれていた。
自分の名前が書いてあるような気がしたけど、はっきりとは読めない。
ページをめくると、文字たちはバラバラに動き出し、跳ね回り、ぐるぐると踊り始める。
でも、なぜか分かる。これは数学の教科書だ。
「何度か来たことがある。……まぁ、いい思い出じゃねぇよ」
セバスチャンがややうんざりしたように息をついた、そのとき──
ガラリ、と教室の戸が開いた。
「おっはよ~、。セバスチャンも、おはよ~」
その瞬間、教室の空気が変わった。
それまで静まり返っていたはずの空間が、ざわ……とざわめき出す。
後ろの席、斜め前、窓際──“誰もいなかったはず”の机に、気配が生まれていく。
まるで最初からクラスメイトがいたように、目を合わせず、口も動かさず、存在だけが満ちていく。
窓の外には、いつの間にか校庭ができていた。
遠くで声がする。ボールを追う影、揺れる木々。
夢の中で、世界が“整った”。
ランダルはいつもの学ラン風の服を着ていて、教室の後ろの方から歩いてきた。
手ぶらで、笑っていて、まるでただのクラスメイトのように──自然に。