第1章 いち
人の身を得ていた貴方はやがて元の姿になり、灰になり、私の前から消え失せた。
貴方は無責任ね。
ずっと、そばにいてくれるんだと思ってた。
私を拾い上げてくれたその時から、ずっと。
貴方が朽ちた後、しばらく雨が降ったの。
私思ったわ。
貴方に触れたくても触れることができない、貴方に語りかけたくてもそうすることができない、貴方の亡骸に涙一つ溢せない。
不便ね、この姿は。
それでも、涙を流せない私の代わりに、空が泣いてくれたわ。
生まれた場所を思い出すほど、ずっとずっと降り続いた。
貴方が暑い日によく食べていた氷菓子、それみたいに私溶けてなくなるのかと思うほどよ。
雨は好きなの。戦いを終えた後の、貴方の心を映しているようで。
でも、晴れはもっと好き。
貴方が私にお日様を教えてくれたんだもの。
貴方の笑顔にも似ていたし、晴れの日は長くそばにいてくれた。
ねぇ知ってる?
たまに三日月や鶯も私に会いにきていたこと、貴方を思って私に会いにきていたモノは、沢山いたのよ。
それなのに、誰1人。
貴方が灰になってから、誰も顔を出さなくなった。
私以外の声がしない。
貴方がいないだけでこんなに寂しいこと、私知らなかったわ。
知りたくもなかった。
知りたく、なかったのよ。
それでも私、貴方が一度見つけてくれたから、諦めなかったわ。
何よりも大きく、目立つように。
また貴方が見つけてくれるように。
季節が巡るたび貴方が開花宣言をしなくても、私は咲いてみせたわ。
かくれんぼをしていた子どもたちのように、私も数を数えたわ。
咲いた数よ。
一から十を何度も、何度も。
数はそれしか知らないの、見よう見真似よ。
いつかはそれ以上を教えて欲しいものだわ、だって不便じゃない?
十の後は何になるのかしら?
お喋りなくせに、そう言うことは教えてくれなかったんだから。
…でもね。
もう平気よ。
貴方のためじゃなくても、もう咲けるの。
ねぇ見て?
幹だって枝だって、こんなに太いのよ?
…可愛くはないわね、貴方も私に気付かないかもしれない。
貴方に逢いたいわ。
逢いにきてよ、昔は望まなくても来てくれたじゃない。
もう眠ってしまおうかしら、いっそのこと。
貴方が逢いに来るまで。