第1章 いち
私が目を覚ました場所は、暗く寒い場所。
私には適さない場所。
“お前こんなところで咲いてたのか。寂しいだろ、こんな暗いところじゃ”
見つけてくれたのは白い鳥。
“主が、きみをご所望でな”
屈託のない笑顔でそういうから、私はもうその笑顔に釣られて二つ返事で答えたの。
『連れて行って』って。
でも分かってる、貴方には届かないことを。
それなのに、貴方は大いにうなづいて優しく私を持ち上げた。
動けない私は、初めてこの場所以外を知った。
お日様の暖かさを、風の心地よさを。
貴方は意外と繊細で、丁寧な仕事をした。
“何をしている?”
“主が一振り顕現する度に桜を植えようってさ。初期刀の提案らしいぜ”
“へぇ”
“苗木からとも考えて、他のはそうしたんだが。この前遠征で見つけて。
あの場所は日当たり悪くて最悪、続いた晴れ間に顔だしたんだろうが、あのままじゃ枯れてしまうからな”
鳥に運ばれた種は、一つ処に根を伸ばす。
“だから、連れてきた。桜には変わりないからな。これは俺の分、お前のはその辺…あぁ、それでいいんじゃないか?”
“俺のもあるのか?”
“当たり前だ。この本丸の仲間分植えている。仲間が増えて、木も増えればそのうち桜で埋め尽くされるだろうな、いい驚きだろ?
春には桃色に染まるんだぜ、大層綺麗だろうな”
雨や風を凌ぎやがて花を咲かせるほど大きな木に育った。
“なぁ、聞いてくれよ”
秘密の逢瀬のように、貴方は私に毎日会いにきた。
『いいわよ、貴方には恩があるもの』
貴方の他愛もない話、私結構嫌いじゃなかったわ。
でも貴方怒られすぎよ?少し心配になるくらい。
けど、それが貴方の優しさなのよね。
昔は良かったわ。
貴方の優しさで芽をつけて、みんなが私を見て季節を感じた。
その蕾に春を待った。
開花宣言を出すのは、貴方。
勝手に決めないでよ。
開くのも閉じるのも私が決めることよ。
…なんて天邪鬼だったのかしら?
若気の至りと許してね。
ほら、今年も咲いて見せる。
みんなに、貴方に春を知らせるわ。
そう思っていたのに、雷鳴と悲鳴、大火がこの自然豊かな地を呑み込んでいってしまった。
何の因果か、私以外を呑み込んでいく。
ボロボロの貴方。私の幹に触れて堕ちた。