第2章 あの人
「ゆーうったくん!何見てるの〜、ってまたその人?」
「ちょっとアニキ、勝手にスマホ覗き込まないでよ」
「お兄ちゃんに見られたくないようなものを見てるの!?そんなの、お兄ちゃんは許しません!」
「見られたくないのはその反応がめんどくさいから。別に見られて困るものは見てないんだけど?」
「ゆうたくん!?今めんどくさいって言った!?」
「あ、そろそろ時間だ。じゃあ俺仕事行くから」
後ろからまだ名前を呼んでる声が聞こえるけど、今相手にしてると遅刻する。
まぁ無視しても帰ってきてからがめんどくさいんだけど。
歳の離れてない双子のアニキ。
仲が悪いわけじゃないと思うけど、正直毎日あのテンションは疲れる。
今日だって、俺の憧れのダンサーの動画を見てる時に邪魔をしてきた。
どうせアニキのことだから俺に構ってもらえないのが寂しいとか言う理由でやってるんだろう。
あの人の動画を見てるだけでもかなり勉強になるのに、
アニキは頑なに見ようとしない。
あの人が踊るのはヒップホップで、
俺らのユニット“2wink”とはまた違ったジャンルだけど
そもそものダンス能力が桁違いだ。
アクロバットなんかも解説動画を作ってくれてるから
ダンスでの困りごとは動画を見れば大体解決する。
教え方もすごくわかりやすいし、
段階を踏んで進めていくからできないときはひたすらにそこを練習して
できるようになったら次に進む、という風にできて動画を見てから覚えが速くなった。
“プロデューサー”さんにも動きが良くなった、と褒めてもらえたこともある。
たまたま流れてきたダンス動画を見つけてから俺はあの人のファンになった。
いつか話してみたいと思うことは何度もあったけど、
ダンス動画以外の動画はあがらないし、ライブ配信もない。
公式SNSの管理は全てスタッフさんがやっているらしい。
メディア露出が多いわけでもないし、出ていたとしても全てがダンス関連。
性別、年齢、出身地、経歴…それら全て非公開だ。
自分のことは一切話さないし情報もないので、
巷では“ミステリアスな月下美人”と呼ばれているそうだ。
月下美人とは花のことで、白くて可憐な花だが一晩しか咲かない。
あの人…“luna”さんは透き通るような白い肌で