第36章 別れの時
翌朝…
「…んじゃ…行くか…」
「忘れ物はないですね?」
「あぁ」
「…」
波珊の先導でジープは進もうとする中…なかなか理世は離れれなくなっていた。
「…悟浄…」
「あー、理世、ちょっと来い…」
「おい」
「まぁまぁ…」
そう八戒に宥められながら、三蔵は小さくため息を吐いた。
「…大丈夫、気を付けてね?」
「あぁ」
「…ちゃんと生きて帰ってきて…」
「…あぁ」
「悟浄…ッッ」
「泣ぁくなっつぅの…」
「…泣いて…ない…」
「待ってて…ここで」
「ん…」
「ほら、もう行くっつぅからよ…」
「ん…」
するりと頬に手を滑らせば、触れるだけのキスを落とす悟浄。キュッと親指で涙の跡を拭い去れば『行ってくるな?』と離れていく。
「…ッッ…ご…」
ゆっくりと走り出すジープを見送りながら走り出そうとする理世を背中からグッと抱き引き留めた。
「…沙烙…ッ」
「行くな…」
「……ッッ」
「泣くなって言われたんだろ?」
「…ッ…ん…」
「待つんだろ?」
「…ん…ッ…」
「あいつらなら大丈夫だよ」
そう言いながらも引き留めた腕の中で涙をこらえる理世をなだめる様に沙烙は腕を緩めて頭を撫でていた。
「…ほら、皆待ってる」
「…ん」
「改めて皆、よろしく」
「よろしく、お願いします…」
涙を手の甲で拭い、ぺこりと頭を下げた理世。子供達にも笑って走り寄られ。『大丈夫だよ!』等声をかけられていた。住む場所は沙烙の仮寝所に使われている家だった。働く場所は食事処。そう、初日の食事と最終日の夕飯、そして朝食を摂った場所だった。
「理世ちゃん、これからよろしくね?」
「はい、よろしくお願いします!」
「愛想がいいから運んだり、お客様の相手とかお任せすると思うけど…」
「手間取るかもしれませんが…」
「大丈夫だよ」
そう話して、受け入れてくれたのだった。