第26章 看病への逃避

「『煽り』でしょうか？それと加えて言うならあなたに危機感を持て…と言う事位ではないかと、」
「危機感って…相手三蔵だよ？」
「それです。」

そういわれても理世はどことなくピンとこなかった。そんな相手を叱るでも戒めるでもなく、八戒は話をつづけた。

「…例えば甘く、優しい言葉を発しながらも落ち込んでいるあなたのもとにとてもイケメンの、まぁ、あなたのドタイプの男性が声をかけてきたとします。そこで食事にでも行こうとすればポヤポヤしているあなたの前で薬を仕込もうと思えばたやすい事。そこで薬を盛られ、ホテルになんて連れ込まれたら、あっけなく犯されてジ・エンド」
「…それはさすがに…」
「ないかもしれません。でも信頼しているからこその行動だったと言え、三蔵は教えたかったのかもしれないですよ？」

そういう八戒の顔はどことなく優しくも見えた。

「…それと、あともう一つの要因は煽り、ですが…」
「煽り…って…」
「悟浄に対してです。」
「…なんで？」
「あなたがいるにも関わらず、おそらく今後もナンパ行為はするでしょうという三蔵の考えですよ。」

そういわれた理世はふと頭をよぎった。

『理世がいいと言っても三蔵や八戒が許さねぇだろうけど…』

そう言っていた悟浄のカンというか、読みが当たっていることになる。

「…そりゃ、確かに悟浄の中ではナンパは大したことないだろうし…それは私も解ってる事だから…」
「解っていることでも積もり積もれば知らず知らずに心に積もっていくんです。負の感情というのは…」
「……負って…」
「はい、だから、手遅れになる前にという三蔵の考えもあるのかもしれません。」
「三蔵の考えって…よくわからない…」
「そうですか？長く付き合えば少しずつ見えてくるはずですよ？」
「優しいとは思う…でも、他の人にそんなに興味はないと思うし…」
「理世…」
「何？」
「『そんなに』ではありません。三蔵は一部の人間以外『全く』興味がありません」

はっきりとそう八戒は言い切った。