第13章 scene12…旅立ち
ふぅっと一つ息を吐くと菩薩はゆっくりと話し出す。
「たった一人なんだよ。」
「え?……何が…?」
「たった一人…そいつに対して雅が最後に一番伝えたかった事…それを言ってもらうだけだ」
「…なにそれ……」
「それまでは教えてやらねえよ、そんなお人好しじゃねえ」
「…じ…じゃぁ、もしその人に対して私が思ってるのと違ったら?」
「一生鍵は開かねえよ」
「…嘘……」
「マジ☆」
「それって少し位の違いとかは…」
「許されねえ」
「……絶対蓋取る気……無い…」
「はぁ?」
「菩薩絶対無理だって解ってそんなの付けたんでしょ……ハァ…聞いて損した…」
「なんでそう思う。」
「だって、例えばよ?その人に対して私が好きだなって好意を寄せてたとしても、相手が迷惑だとか思ってたら?絶対、何がなんでも好きなんて言わないじゃん?」
「…まぁ、そうだな。」
「その逆に私が苦手だなとか、嫌だなって思ってる人でもその人が仮に私に好意抱いてても同じでしょ?」
「…まぁな。」
「ほら!!だから絶対相思相愛じゃなきゃいけないのよ。嫌でも好きでも!なのに……」
「プッ…ハハハ」
「…なによ…バカだこいつとかでも思ったでしょ」
「…いや?…クックックッ」
「それとも、やっぱ自分のかけた鍵は無理だとか察した!?」
「……ちげぇよ。相変わらずおもしれぇ発想って思ってな」
そう言うとプウッと膨れる雅を撫でた。
「そんな心配しなくても、大丈夫だ、心配すんなよ」
「…自信満々…」
「そりゃそうなるぜ。鍵かけた本人だからな。」
ゆっくりと抱き締め直すと菩薩は子供をあやすかのようにリズム良く背中をポン…ポン…と叩いていた。
「ゆっくりと寝ろ。明日寝坊すんなよ?」
「……しない…よ」
その心地よさから雅は気付けば眠りへと堕ちていった。抱き上げて、ベッドに寝かせるとそっと前髪を避けてやる。
「…安心しろよ。あいつとは間違いなく相思相愛だからな」
そう呟くものも、雅には届かなかった。