第10章 本当は
「え…?」
本当に突然すぎて戸惑う。
俺は立ち止まり、振り返った春樹の顔を見つめた。
春樹も、黙ったまま俺を見つめ返す。
「いねぇよ、そんなの」
俺は少し視線を下に向け呟いた。
そんな俺を見て、春樹は小さくため息をつき、また真っ直ぐ見つめる。
「お前いい加減素直になれ」
「!」
その言葉にドキリとした。
「何言ってんだよ、十分素直じゃん」
「貴夜」
春樹は俺に歩み寄り、肩を掴む。
「自分の気持ちに、嘘はつくな!」
そう怒鳴ったあと、春樹は大きく深呼吸をした。
「お前、野木が好きなんだろ?」
「そ、そんなわけ…」
「見てれば分かるよ。お前の、野木を見る目は明らかに他の奴らとは違う。昼休みに、杉山晴と楽しそうに話をする野木を見て、お前いつも悲しそうな顔してる」
そこまで言ったあと、春樹は顔をうつ向かせ、肩を掴む手に力を入れた。
「俺は、そんな貴夜を見るのが辛い…」
力を緩め、顔を上げる。
その目はとても悲しそうで、泣きそうだった。
「自分の気持ちに素直になれ、嘘つくな。想いを誤魔化さず、しっかり向き合え、前に進め。じゃないと、お前が進まないと…俺も進めない…」
春樹の言葉が、心に重くのしかかる。
俺は、怖かったんだ。
自分の気持ちを認めることが。
野木のことは嫌いだった。
だから、認めたくなくて、ずっと自分の想いに見て見ぬふりをしていた。
本当は、心の奥底では気付いていたのに。
そのせいで、たくさんあいつを傷つけた。
なのにあいつは、俺のことを「好き」だと言ってくれた。
嬉しかった。
泣きそうになった。
俺はあいつに、感謝しなければならない。
伝えたいことがたくさんある。
「ありがとう」
「ごめん」
そして…。
俺は涙を流し、春樹に笑いかけた。
「春樹、ありがとう…」