第10章 本当は
数時間後。
家の中にチャイムが鳴り響く。
俺は玄関のドアを開けた。
「よう」
そこには春樹が立っており、俺は申し訳なさそうに肩を竦めた。
「悪いな、色々。今行くから」
俺は貴文のいる部屋に行き、ドアをノックする。
「はい」
「あ、貴文、兄さんだけど。バイト行くから、後はよろしくな」
ドア越しに「分かった、頑張ってね」と聞こえ、ドアの前を離れ玄関に行った。
靴を履き、外で待ってる春樹に駆け寄った。
「お待たせ」
「おう。じゃあ行こうぜ」
そう言って歩き出す。
今のところ会話はないが、不思議とその沈黙は嫌ではない。
春樹とは一緒にいて楽だし、楽しい。
本当に、いい友達を持ったと思う。
「そう言えばさ…」
突然、春樹が沈黙を破った。
「さっき野木と、その恋人って噂の奴と会ったよ」
ドキッとして、俺は顔をうつ向かせた。
「何か、喧嘩してたみたいでさ、貴夜の名前も出てきてた」
どうせ、杉山は俺に近づくなとでも言ったんだろう。
あいつ独占欲強いから。
で、それに野木が反発した。
と言うかこれって、三角関係って言うのかな。
いや、ただの一方通行か。
でも、一応、俺は野木と体の関係を持ってしまったわけで。
何かそう言うの、よく分からない。
「貴夜?」
春樹に顔を覗き込まれ、はっとする。
「ごめん、ぼーっとしてた」
俺がそう言うと、春樹は笑った。
「しっかり歩けよ。お前危なっかしいし」
そこで俺は、ある異変に気付く。
春樹の笑顔が、いつもと違う。
何無理して笑ってるような気がする。
何かあったのだろか。
「あのさ、貴夜、突然なんだけどさ…」
春樹は口籠り、言いにくそうに顔をうつ向かせるが、決意した様に顔をあげた。
「お前って、好きな人いるの?」