第10章 本当は
春樹…!
男は体勢を崩し転びそうになるが何とか立て直し、春樹の方を向いた。
「何方ですか」
「それはこっちの台詞だ、貴夜を離せ!」
男が口を開きかけた時、他の男の携帯の着信音が鳴り響く。
携帯を手に取り、耳に当て何やら話始めた。
数秒して電話を切り、俺を担いでいる男に耳打ちをする。
男は頷くと、俺を静かに地面に降ろした。
一体何が…?
「手荒なまねをして申し訳ありません。撤退命令が出たので私たちはこれで。カッターはここに置いておきます。では…」
そう言い残し、男たちは去って行った。
何だったんだ、あいつら。
とりあえず、助かったんだよな。
俺はお礼を言おうと思い春樹の方を向いた。
だが、口をガムテープで塞がれているため言葉が出ない。
すると春樹は俺に近づき、優しくガムテープを剥がしてくれた。
「春樹…」
「貴夜、大丈夫!?怪我ない!?」
お礼を言おうとしたが、先に言われてしまい少し戸惑う。
「うん、大丈夫」と言うと、春樹はほっと息をつき、俺を優しく抱きしめた。
「よかった…。あ、今紐ほどくから」
春樹は男たちが置いて行ったカッターを使い紐を切る。
手が自由になり、春樹の方を向き頭を下げた。
「本当、助けてくれてありがとう」
「あ、頭上げて!そんな大層なことしてないし…」
俺は頭を上げ、春樹の手を取る。
大きく逞しい手。
それをぎゅっと握り、笑いかけた。
「春樹、ありがとう」
春樹は顔を赤くし、俺を見つめる。
「どうした?」
手が、俺の頬に触れる。
そして、顔を近づけた。
互いの唇が、もう触れそうな位置にある。
そして…。