第9章 素直に
頭が真っ白になる。
今俺の目に映っているのは迫り来るトラックだけ。
音は何も聞こえない。
そして俺は、死を覚悟した、その時。
「貴夜!」
すごい力で後ろに引き寄せられ、尻餅をつく。
目を開けた瞬間、目の前をトラックが通過した。
そこでやっと事の重大さに気付き、恐怖で体が震え上がる。
引かれていたらどうなっていただろうか。
そんな事を考えてしまい、余計に体が震えた。
そう言えば、誰か俺を助けてくれた、よな。
助けてくれた人は俺を背中から抱くような形で背後に座っていた。
俺は後ろを振り向き、顔を見る。
そこには、いるはずのない人物がいた。
「野木…!」
そんな俺の様子を見て、野木は安堵したように息をつき、俺の首筋に顔を埋めた。
「よかった、無事で…。本当によかった…」
野木の手が、少し震えている。
「怖かった、また、大切な人が俺の前からいなくなってしまうんじゃないかって。すごく、怖かった…」
この前の野木の話が頭によみがえる。
俺は、震えている野木の手を握った。
「大丈夫」と伝える代わりに、優しく、でも確かに強く握ってやった。