第9章 素直に
「いやぁ助かったよ、ありがとね」
俺は今、会ったばかりの美男子と隣で授業を見ている。
彼曰く、妹の教室に行きたかったのに迷ってしまい暫くさ迷っていたら俺とぶつかってしまったと言う。
偶然行く教室も同じで一緒に来たのだ。
「そう言えば君、名前何て言うの?」
突然の話題に戸惑いつつも答える。
「三好貴夜って言います」
「…三好?」
俺の名前を聞いた時、彼は眉を潜め俺を見た。
何だろう、何かまずいこと言ったか?
「そうか、君が三好貴夜くんか…」
そう呟いた彼は微笑み軽く背中を叩いた。
「俺は島根雄人(シマネユウト)。よろしくね」
その笑みに何だか安心させられる。
俺も微笑み返し、「よろしくお願いします」と言った。
そう言えばこの人何歳なんだろう。
見たところ俺よりは年上っぽい。
成人はしてそうだな。
島根さんを観察していると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
次々と生徒やら保護者やらが教室から出てくる。
「あ、貴夜兄!」
朝妃が俺に気付き駆け寄る。
一応島根さんにも妹を紹介しておこうと思い、横を振り返った。
だがそこには、誰もいなかった。
「あれ、帰っちゃったのかな」
少しくらい声をかけてくれてもいいではないかと思ったが、今日初めて会った相手にそこまで言わなくてもいいと思い、俺は朝妃の話に耳を傾けた。
校門前。
「いやぁまさか、こんな所で会えるとは思ってもみなかった」
ひとりの少年は空を仰ぎながら言う。
そして、楽しそうに口元を歪めた。
「これからが、楽しみだねぇ」