第9章 素直に
目の前に現れた杉山に、動揺を隠せない。
杉山はチラリと俺を見る。
「ほら母さん行った行った」
杉山は母親の背中を押して教室へと向かわせた。
呆然としていたが我に返り、俺も教室へと向かおうとした、が。
「待ってください、三好先輩」
杉山に呼び止められ、立ち止まる。
「この間、隼人先輩泊まりに来ましたよね」
何で知ってるんだ。
杉山を見ると、目が全く笑っていない笑顔を俺に向けていた。
「僕が言ったこと、まさか忘れていませんよね?」
忘れるわけないだろ。
あんな敵意むき出しの言葉。
俺はため息をつき、杉山を真っ直ぐ見据えた。
「忘れてない、それに、あの時はあいつが勝手に来ただけで、俺は別に歓迎はしていない」
「あんなおあついキスもしてたのに?」
だから何で知ってるんだ。
まさか見てたのか?
「僕は隼人先輩が好きです。だから貴方みたいな人に取られるわけにはいかないんです」
杉山の目はいたって真剣で、嘘を言っているようには思えない。
まず、俺はあいつが好きじゃないんだから取られようが何しようがどうでもいいんだ。
気をとりなおし言葉を返そうとしたとき、丁度チャイムが鳴り響いた。
「まぁいいです。今度からは近づかないでください。もう次はありませんから」
それだけ言って、杉山は母親を追いかけて去って行った。