第7章 優しさ
午後11時。
父親のジャージをみにまとった野木が物珍しそうに俺の部屋を眺めている。
さっきまでいづみと姫果の遊び相手をしていた奴は、早々に2人を寝かしつけ俺の部屋へとやってきた。
俺は、かつて親が使っていた寝室から布団一式を持ってきてベッドの横にひく。
「別々で寝るのか」
「当たり前だ。このベッドに高校生2人も入らないし、お前と一緒に寝たら危険だからな」
布団を整えながら言う。
すると突然、後ろから抱きつかれた。
「バカだな、俺と2人っきりになった時点でもう危険だって言うこと、分かんない?」
ドクンと心臓が鳴る。
くそ、油断してた。
俺はこの場を乗りきるため、わざとらしく違う話題を振った。
「そ、そう言えばお前、両親とか、家族に連絡しなくていいのかよ」
「…家族」
少し、俺を抱きしめる腕が強まる。
どうしたんだ?
今は振り向こうと思っても振り向けない状況のため、俺は野木の次の言葉を待った。
「俺は、家族の温かさが分からない」
「え…?」
突然何を言い出すんだ。
何を言っているんだと聞き返そうと思ったが、言葉が出なくなった。
こいつ、震えてる…?
僅かに、野木の手が震えているのが分かった。
「お前、どうした…うわっ!」
野木に仰向けに倒され、目が合う。
その表情はとても寂しそうで、ズキンと胸が痛んだ。
「ひとりはもう、嫌なんだ」
そう呟いた野木は、強引にキスをした。