第6章 冷静に
午後9時。
数人の客を相手し終えて、休憩室にいた。
コーヒーを飲み、一息つく。
携帯をひらき、大量に着信があったことに気がついた。
誰からだ?
確認してみると、全て同じ電話番号だった。
だが見覚えのないもので、登録もしていない様だ。
一応かけなおした方がいいのかな。
そう思い、通話ボタンを押そうとした時。
「タカヤ、指名入ったよ」
ホールの先輩に呼ばれ、仕方なく客の元へと向かった。
今俺の隣に腰をおろしいるのは、中年のおっさん。
そう、男が俺を指名してきたのだ。
別に、男の相手をするのは初めてではない。
でもこいつは、いつもの比じゃないくらいに、ヤバい。
「あ、あの、困ります、こう言うことされると」
男はさっきから、俺に顔を近付けキスを求めてくる。
「いいじゃん、君酒飲めないんだろう?これぐらいのサービスはしてもらわないとなぁ」
「申し訳ありませんが、そんなサービスはしておりませんので」
男を引き剥がし、ホールに声をかけようとすると、男は俺の腕を引き手で口を抑えた。
「なぁに、すぐ終わるさ、騒ぐような事でもない」
「!」
男はゆっくりと、俺の服のボタンを外していく。
体の体温が、引いていくのを感じた。
一瞬で、あの時のことがよみがえってきた。
俺は男の腕を振り払おうとするが、上手く腕を抑え込まれ身動きがとれない。
俺ってこんなに非力だったっけ?
何て、呑気なことを考えている暇ではない。
何とかしなければ。
辺りを見渡すがホールの姿は見当たらない。
こんな時に限って、くそ!
そうこうしているうちに、ボタンを全て外されてしまった。