第6章 冷静に
目を開ける。
体を起こすと、毛布がずり落ちた。
貴文がかけてくれたのかな。
毛布を拾いあげ、ベッドの上に無造作に置く。
そして立ち上がり、部屋を出た。
リビングに向かう途中、甘い香りが漂っているのが分かった。
この香りは、ホットケーキか?
リビングに入ると、部屋中にその香りが充満していた。
「あ、貴夜兄!」
ホットケーキを美味しそうにほうばるいづみと姫果。
それを見ている朝妃は、何だか上の空で、考え事をしている様だった。
「あれ、貴文は?」
部屋中見渡しても貴文の姿はない。
「買い物行ったよ」
「え…」
買い物って、本来ならば俺の仕事なのに。
この2日間で、だいぶ負担かけさせてしまった。
「貴文兄ね、貴夜兄にゆっくりしてもらいたいからって、家事張り切ってたよ」
いづみが笑顔を浮かべ言う。
心がほんのりと温かくなった気がした。
あいつきっといい旦那さんになるよな。
何て未来を想像しながら俺は朝妃の隣に座った。
と、その時、机の隅に置いてあった携帯が着信音を響かせた。
俺の携帯、何で…あ、洗濯物に入れっぱなしだったんだ。
取り出してくれた貴文に感謝しなければ。
携帯を取り画面を見る。
そこには『作田春樹』と表示されていた。
通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし」
『あ、もしもし貴夜。ちょっとお願いがあるんだけど…」
申し訳なさそうな声が聞こえた。
何かあったのだろうか。
俺は椅子から立ち上がりリビングから出る。
「どうした?」
『今日俺ちょっと用事出来てしまって、バイト行けねぇんだ。だから、代わりにバイト行ってくれないか?』
急にそんなことを言われても…。
店長から働き過ぎだと注意されて3日間休みをもらった。
その間、ゆっくり出来ると思ったんだけど…。
少し迷ったが、友達の頼みだから、断れなかった。
「分かった、行く」