第6章 冷静に
野木を起こし、朝食を食べ、家を出る準備を済ませた。
少しだけしかいなかったが、いざ離れるとなると、何だか名残惜しい。
おばあさんも村の人も、皆いい人ばかりだった。
家を出て、おばあさんを振り返った。
「ありがとうございました」
お礼を言うと、おばあさんは寂しそうに微笑んだ。
「お礼を言うのはこっちの方だよ。おかげで楽しかった、ありがとね」
きっと、おばあさんはひとりで暮らしていて寂しいと思う。
他の村の人はいるけど家も遠いし、皆年寄りだからそう遠出は出来ないだろうから、小さな繋がりでも、持っていてあげたい。
「あの、今度は、家族を連れて来てもいいですか?」
そう言うと、おばあさんは一瞬驚いた様な顔をしたが、「いつでもおいで」と微笑んでくれた。
俺はもう一度お礼を言い、歩き出した。
「待ってよ貴夜」
慌ただしく俺の背中を野木が追いかける。
置いて行こうと思ったのに、作戦失敗だ。
「ちっ…」
「今舌打ちしただろ」
野木を軽く無視して、後ろを見る。
おばあさんがこちらに手を振っていた。
それを振り返し、また前を向く。
この道を真っ直ぐ行けば駅につくのだ。
電車に乗るのは少し怖い。
またあんなことをされるのではと思うと、体が震えた。
でも痴漢なんて、そうそうされるものじゃない。
冷静に考えたら分かることだ。
俺はひとつ大きく深呼吸をして空を見上げた。
道を間違えないよう、冷静に行動することが利口なやり方。
もうあんな間違いは起こさないぞ。
そう心に決め、駅までの道を急いだ。