第6章 冷静に
目が覚める。
あれは夢だったのかな。
何て現実逃避も虚しく、隣ではすやすやと寝息をたてる野木の姿。
体を起こし、散らばっている服を集め着る。
そして小さくため息をついた。
「何やってんだろ、俺」
昨日のことは思い出したくもない。
最初は嫌だったのに、色々触られるうちに、き、気持ち良いとか思ったりして、全て奴に委ねてしまったり。
冷静に考えたら、本当に何やってんだろって思う。
昨日は、俺が可笑しくなっていた。
初めて痴漢にあって、キスされて、触られて。
冷静さを失っていた。
バカだな俺は。
泣きそうになるのを堪え、部屋を出た。
「おはよう貴夜くん」
台所では、おばあさんが朝食の準備をしていた。
「おはようございます。何か手伝いますよ」
「いいわよそんなの。昨日はお疲れだったろうし」
「いえ、しっかり寝たので、大丈夫ですよ」
「いやねぇ、そんなんじゃないわよ」
おばあさんがニヤニヤしている。
嫌な予感。
おばあさんは火を止め、料理を運びながら言う。
「昨日ね、何か騒がしいなって思って貴方たちの部屋を覗いたのよ。そしたら…ふふっ、まさかあんな関係だとは思わなかったわぁ」
サッと、血の気が引いた。
さ、最悪だ。
まさかあんなところを見られるなんて。
「あのおばあさん。俺たち別にそんな関係じゃ…。それに昨日のはあいつが無理矢理…」
「そうだったかも知れないけど、貴夜くん、貴方すごく気持ち良さそうだったわよ?」
みるみるうちに、顔が熱くなっていく。
そんな俺を見て、おばあさんはクスッと笑った。
「もぉ、可愛いわぁ貴夜くん」
おばあさんが少し怖いと思った瞬間だった。