第12章 番外編【貴夜に出会うまで】
「やと………隼人起きろ」
「うん…?」
目を開けると、貴夜の顔が視界に入った。
目を開けた瞬間こいつの顔が見られるって幸せだよな。
「鍵開いてたから勝手に入って来た…誰か来てたのか?」
貴夜がテーブルの上に置いてあるコップを見て言った。
「うん、母さんが…。一緒に暮らさないかって言われたけど、大切な人と一緒にいたいって言ったら、許してくれたんだ」
「大切な、人…」
俺は体を起こし、貴夜を抱き寄せた。
「お前と、ずっと一緒にいたい…」
俺がそう言うと、貴夜も俺の背中に腕をまわした。
こんなことはまれで、少し戸惑う。
でもそれ以上に嬉しい。
「そう言えばさ、お前俺のこと名前で呼んだよな」
「は、呼んでない」
あ、いつもの貴夜に戻った。
でも、素直すぎるよりは、こっちの方がいいかもな。
「なぁ貴夜はさ、俺のこと好きか?」
「…何だよ、急に」
「いや、何となく」
「何だよ気持ち悪いな」
貴夜はふっと笑い、俺を抱きしめる腕を強くした。
言葉には出さないけれど、いつも行動で示してくれる。
不器用だけど、ツンツンしてるけど、でも俺は、そんなところも全部引っくるめて貴夜が好きなんだと、実感した。