第12章 番外編【貴夜に出会うまで】
「え、か、母さん?」
親にこんな風にしてもらうことが初めてで、凄く驚いた。
「隼人、もう嘘はつかないでいいから」
その言葉に、じわりと視界がにじんだ。
「今更母親ぶるなとか思うかもしれないけど…。私、貴方が人一倍寂しがりやだってこと知ってるから。隼人がひとり暮らし始めたって最近聞いて、居ても立ってもいられなくて…」
大方、その話は親戚にでも聞いたのだろう。
まったく、余計なことを…。
「ねぇ隼人、また一緒に暮らしましょう。私の、新しい家族と」
「え?」
想像もしていなかった言葉。
まさかこの母親からこんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。
「家は、ここから遠いところにあって、今の高校も通える距離じゃないの。だから、転校する形になっちゃうけど…」
転校…。
母さんとまた暮らせるのは嬉しい。
だけど、転校してしまったらもう、貴夜には会えないかも知れないと言うことか。
じゃあもう、答えは決まってる。
俺は母さんを離し、目を見た。
「母さんごめん、俺、ここにいるよ」
「どうして…?」
「ここで、沢山いい思い出も、友達も出来たんだ。大切な人もいる。だから俺は、ここを離れたくない。ずっと、大切な人と一緒にいたいんだ」
母さんは一瞬目を見開き、そして、ふっと笑った。
「大切な人って、好きな人?」
「…うん」
母さんは「それならしょうがないか」と呟き立ち上がった。
「分かった。だけど、時々様子は見に来るから。私は、貴方の幸せを優先するからね」
何で、もっと早く繋がれなかったんだろう。
そしたら俺も、凄く幸せだった筈だ。
あぁでも、過去がなければ貴夜にも出会っていなかったかも知れないのか。
だったら、これでよかったのかも知れない。
全ては、あいつに出会うため。
母さんを見送り、部屋のベッドへと倒れ込んだ。
貴夜が来るのはあと何分だろうか。
何だかとても待ち遠しい。
貴夜が来たら、さっきのことを話そう。
俺が、お前と一緒にいたいって言ったら、あいつ照れるかな。
馬鹿なんじないのかって、言われるかも知れない。
それでもいいって思える俺は、変なのかな。
そんなことを考えていると、いつの間にか寝てしまった。