第12章 番外編【貴夜に出会うまで】
「たっだいまー」
誰もいないアパートにそう呼びかける。
だが今は寂しいとは思わない。
機嫌が最高にいいからな。
鼻唄を歌いながら部屋を軽く片付ける。
と、その時チャイムが鳴った。
貴夜かな…。
それにしても早くないか?
学校から貴夜の家まで25分。
貴夜の家から俺の家まで30分はかかる。
だからここに来るのはだいぶ後の筈だ。
だとしたら誰だろう。
そう考えていると、二度目のチャイムが鳴り響いた。
「あ、はーい」
俺は玄関に行きドアを開けた。
「どちら様です…か…?」
目の前には、約3年間まともに会っていないけど、でもしっかり思い出に残っている人が立っていた。
でも、何故ここにいる。
いる筈のない人が、何故ここに…。
「何で、母さんが…」
母さんをとりあえず部屋へと入れ、今は向かい合って座っている。
会話は、まだない。
一体、この人は何をしに来た。
何で俺の居場所が分かったんだ。
今は色んな疑問が浮かんでくるが、口には出さずじっと母さんを見つめた。
「隼人」
母さんが、俺の名前を言う。
何だか久し振りで、違和感があった。
「今日は、貴方に謝りに来たの」
「え?」
謝る…?
「お父さんとの仲のこととか、貴方の世話をしなかったこととか、家を出ていってしまったこととか…。私、今更後悔してるの」
本当に、なんて今更。
と言うか、それだけのためにここに来たのか?
「本当に、貴方に酷いことをしました。…ごめんなさい。許されるとは思ってないけど、だけど…」
「もういいよ」
俺は言葉を遮る形で呟いた。
「許す許さない以前に怒ってないし。もうどうでもいいから。寂しいとか思ったことないし、別に母さんを恨んでる訳じゃない」
多少の嘘は混じってるが、それは大目に見てくれ。
俺はぎゅっと拳を握り母さんを見た。
「母さん、新しい家庭があるんだろ?俺なんかに構ってないでそっちに行けばいい。そっちの方が、よっぽど大事だ」
チクリと胸が痛んだ。
自分で言ってて、何だか虚しくなってくる。
でもこれでいい。
俺が目を瞑った時だった。
母さんが、俺を優しく抱き締めた。