第10章 本当は
教室の前につき、呼吸を整え、大きく深呼吸をした。
ドアに手をかけ、開く。
「!…貴夜。もう大丈夫なのか?」
本当に野木がいた。
窓辺にいて、外を眺めていたようだ。
「あぁ、もう大丈夫」
俺はドアを閉め中に入る。
「俺さ、彼女に裏切られてから、もう恋はしないって決めてたけど、お前に出会えて変われた。また人を好きになれた。貴夜のおかげだ、ありがとう」
突然そう言われ、泣きそうになった。
そんなの、俺だって同じなのに。
「俺も、恋はしないって思ってた。ましてや男なんかに…」
そこで口籠る。
うつ向き、ドキドキする胸をおさえながら言葉を紡いだ。
「俺は、自分勝手で腹黒で、変態で意味不明なお前が嫌いだった」
俺の言葉に、野木は目を細める。
「嫌いだったんだ…。でも、優しいとことか、楽しそうに笑うとことか、いつでも守ってくれるとことか、色んなお前を知っていくうちに俺は…」
心臓が煩いほどになっている。
普段気持ちを伝えない俺だから、こう言うのはすごくドキドキしてしまう。
今まで、自分の気持ちに嘘をつき続けてきたから。
だからこの時ぐらい、素直になってもいいんだよな。
「俺は…お前を、野木隼人を…好きになっていたんだ」
ここまで来るのに、凄く遠回りした。
今更って思うかも知れないけれど、俺は…。
「たくさん傷つけてきて、許されるとは思ってないけどさ、これは俺の本当の………って、えぇ!?」
野木を見ると、泣いていた。
驚きすぎて、幻覚なのではないかと思って目を擦ったが、野木も、彼の涙も消えない。
確実に、本物だ。
「お、おい…」
「馬鹿野郎…。言うの遅すぎるんだよ…」
そう呟き、涙を拭う。
野木は俺に近づき、そして優しく抱きしめた。
「信じていいんだよな、その言葉。お前はもう、俺のモノってことで、いいんだよな」
俺は静かに、野木の背中に腕を回した。
「うん…いいよ」
これまでにないくらいの、優しいキスを交わした。
笑い合った。
幸せを、噛み締めた。
「貴夜、愛してる…」