第10章 本当は
杉山は一瞬驚いた様な顔をしたが、昔を思い出す様に目を閉じた。
「僕と隼人先輩が初めて会ったのは幼稚園の頃で、隼人先輩、『先輩』って呼ばれるのが夢だったらしく、『俺のことは隼人先輩と呼べ!』と言って、それからずっとこれなんです」
昔の野木を想像すると、自然と笑みがもれた。
「そうだったのか…」
子どもだな。
まぁ誰でも1度は憧れるものだと思うが。
「あ、もう5時ですね」
杉山が自身の腕時計を見て呟いた。
すると立ち上がり、俺の荷物らしきものを手に取り俺に渡す。
「時間です。教室へ行ってください」
「え、何で…」
「いいから行ってください!隼人先輩が待ってるんです!」
その言葉にドキリとした。
「自分の気持ち、ちゃんと伝えてあげてください」
その後のことは、よく覚えてない。
ただ走って、急いで教室へと向かった。
保健室では、杉山が涙を流し、「頑張ってください」と呟いていた。
俺の今の気持ち。
うまく伝えられるだろうか。
逃げ出してしまうかも知れない。
いや、大丈夫。
春樹に、杉山に背中を押してもらったんだ。
逃げちゃダメだ、向き合おう。
もしかしたらあいつは、俺に呆れ返っているかも知れない。
でも、伝えなきゃ。
後悔はしない。
伝えよう、俺の想いを…。