【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第15章 自殺か他殺か
「被害者は渡辺健二。大手薬品メーカーの元社長で73歳。10年前、奥さんと死別。事件当時は自室で倒れているところを家政婦が発見」
書類を見ながら敦と一緒に被害者を確認する。
「自殺か他殺か分からないって言ってましたけど凶器となるものは無かったんですか?」
敦の言葉を聞いた香織は書類のページをめくる。
「凶器は‥‥ないね。近くに割れたワイングラスくらい。落とした際にカーペットにワインが染み込んで、そこから青酸カリが出てきた」
ワイングラスだけでは分からない。
自殺にも見えるし他殺にも見える。
「あっ、着いた。ここがその現場」
書類から視線を外して敦と屋敷を見上げる。
「アンタらが探偵社か」
声が聞こえた方へ振り向くとグラサンをかけた黒スーツの男性が立っている。
彼は軍警の人だろう。
「はい」
「悪いな、こんなところにまで来てもらって」
「いえ、仕事ですので」
「犯人が見つかったらここに連絡してくれ」
黒スーツの男性は名刺を香織に渡す。
「あの、捜査はしないんですか?」
「もうとっくしにした。他にも抱えている事件があるから俺はそっちに行かないと行けない。後は頼んだ」
黒スーツの男性こと、小池誠は近くに止めてあった黒い車に乗り込んで立ち去る。
「軍警の人は忙しいんですね」
「そうだね」
敦と香織は小池が車を乗って去って行った道を見ながら呟く。
「さて!まずは現場確認と聞き込みだね」
「はい!」