【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第11章 たえまなく過去に押し戻されながら
「断る。命が金で購えぬ様に、許可証と替え得る物など存在せぬ。あれは社の魂だ、特務課の期待、許可証発行に尽力して頂いた夏目先生の想いが込められて居る。頭に札束の詰まった成金が易々と触れて良い代物では無い」
「『金で購えないものがある』か、貧乏人の決め台詞だな。だが、いくら君が強がっても社員皆消えてしまっては会社は成りたたない、そうなってから意見を変えても遅いぞ」
「御忠告、心に留めよう。帰し給え」
「お客様のお帰りでーす」
ナオミの声に部屋の外で控えていた賢治がドアを開ける。
「明日の朝刊にメッセージを載せる。よく見ておけ、俺は欲しいものは必ず手に入れる」
◆ ◆ ◆
「君がミス香織だね?」
「は、はい」
先頭で歩いている賢治の隣を歩いていた香織はフィッツジェラルドに話しかけられる。
「今度、君をティーパーティーに招待しよう。心待ちにしてくれ」
「それはどうも」
(いや、招待してくれなくていいです)
「ではな、世界の支配者《クイーン》」
(クイーン?)
早く帰ってほしいため、フィッツジェラルドの言葉を受け流す。
「お気を付けてお帰り下さい」
昇降機が到着して、三人と賢治が中へと入る。
香織も入ろうとしたが賢治に止められる。
「香織さん、後は僕が送りますよ」
賢治がそう言うと自動扉が閉まる。
その日、賢治の姿を誰も見ることはなかった。