【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第8章 月下の少年
「巷間には知られていないが、この世には異能の物が少なからずいる。その力で成功する者もいれば、力を制御できず身を滅ぼす者もいる」
敦の身体の形が変わっていく。
(あらまー)
「大方、施設の人は虎の正体を知っていたが君には教えなかったのだろう。君だけが解っていなかったのだよ。
君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす、月下の能力者−−」
鋭い爪と牙、獰猛な顔つき、その獣は正しく虎だった。
敦から姿を変えた虎は太宰に飛びかかる。
虎はそのまま太宰に目掛けて突っ込んで行った。
「獣に喰い殺される最期というのも、中々悪くはないが、君では私を殺せない」
突っ込んで来た虎に太宰の指先が触れる。
「私の能力は、あらゆる他の能力を触れただけで無効化する」
光に包まれた虎は、光が消えると敦に戻っていた。
意識なく倒れる敦を太宰が受け止めた。
「男と抱き合う趣味はない」
そう言って敦を床に落とした。
(これ、私必要だった?)
「おい、太宰!」
入り口から国木田が急ぎ足でやってきた。
「遅かったね、虎は捕まえたよ」
太宰は寝ている敦を指した。
「その小僧−−」
「虎の能力者だよ、変身している間の記憶がなかったみたい」
「全く、次からは事前に説明しろ。お陰で非番の奴らまで駆り出す始末だ」
すると、後ろから三人の人影が現れた。
「なんだ、怪我人はなしかい?つまらないねぇ」
与謝野晶子
異能力−−君死給勿
「中々出来るようになったじゃないか、太宰。まぁ僕には及ばないけどね!」
江戸川乱歩
異能力−−超推理
「でもその人どうするんです?自覚はなかったわけでしょ?」
宮沢賢治
異能力−−雨ニモマケズ
「どうする太宰。一応、区の災害指定猛獣だぞ」
国木田独歩
異能力−−独歩吟客
「とりあえず、社長に相談して敦君の処遇を決めたほうがいいんじゃない?」
如月香織
異能力−−夢の方舟
「うふふ。実はもう決めてある」
太宰治
異能力−−人間失格
「うちの社員にする」
太宰はにっこりと笑った。
それとは反対に国木田の顔は唖然としている。
「はぁぁ!?」
国木田の声だけが、倉庫内に響き渡った。
中島敦
異能力−−月下獣