【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第8章 月下の少年
全ての話を聞き終えた後、太宰は少し考え込んでいた。
「敦君、これから暇?」
太宰は思いついた様に敦に尋ねる。
「君が『人食い虎』に狙われてるなら好都合だよね。虎探しを手伝ってくれないかな」
「嫌ですよ!それってつまり『餌』じゃないですか!」
「報酬出るよ」
敦の動きが止まった。
そうだ、彼は一文無しなのだ。
「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」
太宰は国木田に一枚のメモを渡す。
「おい、二人で捕まえる気か?」
「まさか、香織も連れてくよ」
いきなり名前を呼ばれた香織はビクッとする。
「私も行くの!?」
「だってほら、虎と戦う機会なんて滅多にないからね!」
「あの〜ちなみに報酬はいかほど?」
「こんくらい」
太宰が見せた金額に敦は声が出なかった。
◆ ◆ ◆
夜の帳が降りた頃、三人はとある倉庫街の中にいた。
「本当にここに現れるんですか?」
完全自殺と書かれた怪しげな本を読んでいる太宰に敦が尋ねた。
「本当だよ、心配いらない。虎が現れても私達の敵じゃないよ。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」
太宰の自信有り気な言葉に、敦は項垂れる。
「凄いですね、自信のある人は。僕なんか孤児院でもずっと駄目な奴って言われてて、こんな奴が何処で野垂れ死んだって、いやいっそう食われて死んだほうが−−」
ガダンと敦の後ろで物音がした。
「今‥‥外で物音が!きっと奴ですよ、太宰さん!」
太宰は未だに呑気に本を読んでいる。
「そうだね、風で何か落ちたんだろう」
「人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ、敦君。虎はあんな処からは来ない」
「どうして分かるんです!」
太宰は本を閉じた。
「そもそも変なんだよ、敦君。経営が傾いたからって児童を追放するかい?経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ」
「太宰さん、何を言って………」
敦は月明かりに照らされ、ドクンと身体が脈を打つ。