【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第8章 月下の少年
「追い出されたのです。経営不振だとか、事業縮小だとかで」
「それは薄情な施設もあったものだね」
「おい、太宰。俺達は恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ」
国木田の言葉に、次は敦が反応を示す。
「お三方は、何の仕事を?」
「なーに、探偵さ」
「探偵と云っても、猫探しや不貞調査ではない。斬った張ったの荒事が領分だ」
「敦君、異能力集団『武装探偵社』って知らない?」
武装探偵社。
それは軍や警察に頼らないような危険な依頼を専門にする探偵集団。
昼の世界と夜の世界、その間を取り仕切る薄暮の武装集団。
なんでも、武装探偵社の社員は多くが異能を持つ能力者と聞く。
「それで、探偵のお三方は今日のお仕事は」
「虎探しだ」
敦君が遠慮気味に尋ねて来たのをぶっきら棒に国木田が答える。
敦は虎探しと聞いて少し動揺を見せる。
「近頃、街を荒らしている『人食い虎』だよ。倉庫を荒らしたり、畑の作物を食ったり好き放題さ」
「最近この近くでも目撃情報があったよねぇ」
隣にいた敦が椅子をひっくり返す程退いていた。
「ぼ、僕はこれで失礼します」
そそくさと退散しようとする敦の首根っこを国木田が捕らえた。
「待て。貴様、『人食い虎』を知っているのか?」
「あいつは僕を狙ってる!殺されかけたんだ!この辺に出たんなら早く逃げないとーー」
国木田は逃げようとする敦を、綺麗に腕に関節技を決めて床に倒した。
「言っただろ、武装探偵社は荒事専門だと。茶漬け代は腕一本か、若しくは凡て話すかだな」
「まぁまぁ、国木田君。君がやると情報収集が尋問になる。社長に何時も云われてるじゃないか」
国木田は大人しく敦を解放した。
「それで?」
太宰は笑顔で敦に尋ね、敦も観念したように事情を話し始めた。