【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第8章 月下の少年
「『来てたのかい?』て‥‥」
ハァーと深いため息をした少女は怒り気味だ。
「聞き込みしてたら太宰君がフラ〜っとどっかに行ったと思って探してみたら!!流されそうになってた所を!この子が助けてくれたの!」
香織は敦を指し、男性はその指を追うように敦を見る。
「それは済まない事をした。何かお詫びをーー」
男性が話し終える前に敦のお腹が鳴った。
「……空腹かい少年?」
「実はここ数日何も食べてなくて…」
次は敦が話し終える前に男性のお腹が鳴った。
「私もだ。因みに財布も流されたれた」
男はあっけらかんとした表情で言った。
後ろでは香織がまた深い溜息を吐いていた。
「おぉーい!」
河の対岸から男の声がして、三人は振り向いた。
「こんな処に居ったか唐変木!」
「おー国木田君、ご苦労様」
流されていた男は大きく手を振っている。
「苦労は凡てお前の所為だ!この自殺嗜癖!お前はどれだけ俺の計画を乱せばーー」
「そうだ君、良いことを思いついた。彼は私達の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」
流されてた男性は対岸の男性の話を全く聞かずに敦に提案した。
その提案を聞いていた香織は頭を抱えていた。
「君、名前は?」
「中島…敦ですけど」
男性は身を翻し歩き出した。
「付いて来たまえ、敦君。何が食べたい?」
「あの−−茶漬けが食べたいです」
男性は驚いた表情で振り向いた。
そして、吹き出すように笑い出した。
「聞いたかい?餓死寸前の少年が茶漬けをご所望だ!良いよ。国木田君に三十杯くらい奢らせよう」
「俺の金で勝手に太っ腹になるな太宰!」
国木田君と呼ばれた対岸の男は遠くから分かるくらい怒っていた。
「太宰?」
「あぁ、私の名だよ。太宰−−太宰治だ」
「そして私は如月香織。よろしくね」
四人はそのまま敦がご所望する茶漬けが食べられる店に行った。