【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第8章 月下の少年
ーー中島敦、故あって餓死寸前です。
孤児院を追い出され、食べるものも、寝るところもなくこんな処まで来てしまった。
生きたければ奪うしかない。
けど…生きる為だ。
次に通りかかった者、そいつを襲い…財布を奪う。
上下無地の服で少し小汚い少年、敦はとある河原に来ていた。
一文無しの為、財布を奪う心算だ。
(…気配!)
敦の目線の先には河を流れる人間の脚が見えた。
(これはノーカンで…)
目を逸らそうとしたその時
「あーー!いた!太宰くーーん!」
敦の横から一人の少女が現れた。
ハーフアップした黒髪の結び目に純白のリボンをつけた。
桜のような桃色の袴に、ブーツを履いている。
「どうしよう、私‥‥泳げないや」
うーんと少女が唸るように考えていた。
「あの、僕が行きましょうか?」
「え、いいの!?ありがとう!」
◆ ◆ ◆
「助かったよ、ありがとう」
「ケホッケホッ……いえ」
敦は河で流されていた人を河辺に上げた。
少女に礼を言われるが、男性の方は目覚めない。
敦がチラッと男性を見ると男性は急に起き上がった。
「あんた川に流されてて…大丈夫?」
敦の問いかけには答えず、男性はキョロキョロと周りを見渡している。
「‥‥助かったか−−−ちぇっ」
男性は敦に向き直る。
「君かい?私の入水を邪魔したのは」
「邪魔なんて、僕はただ助けようと……入水?」
「知らんかね入水。つまり自殺だよ」
「…………は?」
敦は呆れ顔で男を見ていた。
すると、男性の後ろから先程の少女がタオルを投げつけた。
「痛っ!…あ、香織!君も来てたのかい?」
男性は敦と話していた時とは違う明るい口調で香織と呼ばれる少女を見た。