【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第5章 母が遺したもの
中也君の記憶は途中からしか存在しない。
ある欧州の異能諜報員が巨大な力を求め、軍研究施設から『試作品・甲ニ五八番』と呼ばれる存在を奪った。
それが、中也君である。
異能と既存の生物を組み合わせる『人工異能』の研究により、中也君が生まれたのだ。
欧州の異能力者に奪われ、その異能で取り込まれようとした際起こった大爆発−−それが、あの日に起きたとのことだ。
中也君には『汚濁』と呼ばれる力であり、『荒覇吐アラハバキ』と神のような力らしい。
◆ ◆ ◆
「そんなことが‥‥」
「ま、それを知ったのは最近のことだけどな」
「‥‥」
香織は中也の話を聞いて考えてしまう。
もしかしたら自分も人工的に作られた存在なのではと。
しかしここで矛盾が生じる。
母と過ごした記憶があり、研究所で生まれていないのだ。
(あの人に会うのは怖い−−でも)
柳瀬和雄なら何かしら知っているはずだ。
香織が人間ではないと言われてしまった時、果たして冷静でいられるのだろうか。
今思うと柳瀬和雄探しに協力してからかれこれ数ヶ月。
そして、明後日には柳瀬和雄に会う。
(何を企んでいるか分からないけど、これ以上被害を出さないためにも止めないと)
明後日、その日に香織の行動によってこれからの未来が変わる。
鍵を握る存在となった少女は、柳瀬和雄へと立ち向かう決心を胸に抱いた。