【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第5章 母が遺したもの
どのくらいの時間が経ったのだろう。
気付いたら自室にいた。
(みんな、知ってたんだ)
自分には母という存在がいたのを思い出し、顔の知らない祖父が存在していた。
二人とももうこの世にはいない。
父と呼んでいた柳瀬和雄とは血が繋がってない。
(私、一人なんだ)
実の父も死んでいるかもしれない。
そう思ってしまうと寂しい。
自分に異能があったなんて思いもしなかった。
(母さんが封じていたんだ)
異能を封じられていたお陰で今の香織がいるのだと思うと、感謝の気持ちでいっぱいだ。
そして、まだ分からないことがある。
(研究所にはあの人がいた)
記憶を思い出した香織は無論、研究所が襲撃された日の記憶もある。
驚くべきことにその研究所には香織の身近にいる人がいたのだ。
話を聞こうと部屋から出て、目的の人の部屋に向かう。
◆ ◆ ◆
香織がドアをノックすると部屋の主がドアを開く。
「ごめん、急に‥‥話たいことがあって」
「なんだよ?」
香織が訪れたのは中也の部屋だ。
中に入れさせてもらい、香織は口を開く。
「記憶を思い出したって言ったでしょ?あの研究所に中也君がいたの」
「まさか、手前も‥‥」
「うん、私と中也君は同じ研究所にいた。私の記憶だと中也君はいつも水槽の中にいたんだ」
中也は香織と同じ場所にいたことに対して驚いていた。
その様子から見ると、森は中也に香織についてあまり教えていないと思われる。
「研究所が襲撃された日。男の人が二人いて、その内の一人の腕の中に中也君がいたの。教えてほしい、あの日何があったのか」
中也は少し黙った後、香織に話した。