【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第32章 定められしサークリファイス
「ここは‥‥確か、私は吸血種に噛まれて‥‥」
条野がゆっくりと目を開けると、天井を見つめたまま薄く眉を寄せ、手で自分の首元をそっと触れた。
「あっ、条野先輩起きたんですね!」
柚鈴は椅子から勢いよく立ち上がり、ぱっと顔を輝かせてベッドに身を乗り出す。
「柚鈴さん?」
条野は少し目を細めて、柚鈴の顔を見上げると、かすかに笑みを浮かべた。
「今さっき、美鈴姉から連絡が来たのですが全部終わったらしいですよ」
柚鈴はポケットからスマホを取り出し、画面をちらりと条野に見せながら楽しそうに頬を緩める。
「全部‥‥とは?」
条野はベッドの端に片手をついてゆっくりと上体を起こす。
「もう誰も傷つけられることが無くなったんです。テロも探偵社の無実も全部『無かった事』にされたんです」
柚鈴は小さくガッツポーズを作り、胸の前で手をぎゅっと握る。
「如月香織さん、異能が目覚めて事件を解決したそうです」
「香織さんが‥‥」
条野は目を伏せ、息を整えるように胸に手を当てた後、小さく微笑んだ。
「だからしばらくの間、先輩は休んでてください!」
柚鈴は片手を腰に当て、もう片方の手をぐっと差し出して人差し指を立てる。
「そうは言いましても、事件の後処理などがあります」
条野は苦笑して、申し訳なさそうに眉を下げながらも、ベッドの端に座り直そうとする。
「そんなの私に任せちゃってください!候補でもやれることはやりますので!」
柚鈴は勢いよく手を胸に当てて小さく胸を張り、得意げにウインクしてみせる。
「ふふ、ではお言葉に甘えてそうさせて貰います」
条野は肩の力を抜き、静かに目を閉じて深く息を吐くと、そっと柚鈴に微笑み返した。