【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第32章 定められしサークリファイス
「全然大丈夫です!私、こう見えて頑丈なので!」
美鈴は勢いよく両手を振り、笑顔で胸を張ってみせる。
「それよりもご主人、ムルソーから来たとしても距離がありますよね?太宰の異能で転移石を使えませんし」
「ああ、それはね−−−」
太宰が後ろに目配せする。
「私が御二方を連れて来ました」
梨鈴が胸の前で指を組み、小さく得意げに微笑む。
「梨鈴が?」
「大変でしたよ、ヘリの手配を川端準幹部を説得するのに」
梨鈴は小さくため息をつきながらも、手で髪をかき上げる仕草をする。
「それはお疲れ様、後で私からお礼を言っておくわ」
嘆いている川端を想像出来た美鈴が苦笑いを浮かべる。
「全部終わったし、帰るか」
中也がふっと息を吐き、美鈴の頭にぽんと手を置いたかと思えば次の瞬間、彼女を軽々とお姫様抱っこした。
「わ、わっ!ご主人!!」
美鈴は慌てて中也の首に腕を回し、顔を真っ赤にして小さく身をよじる。
「手前は大人しくしてろ、頑張ったんだからな」
中也は鼻で笑いながら、美鈴の髪を指先でそっと払う。
「ねぇ、あの二人付き合ってるの?」
一連の流れを見ていた香織が肩をすくめて太宰に小声で囁く。
「残念ながら」
太宰は肩をすくめて、少し笑みを浮かべ、どこか遠くを見つめた。
その視線の先には、元通りの青空と飛び立つ飛行機。
「終わったね、全部」
香織は小さく息を吐き、肩にかかった髪を指先で払う。
「ああ、そうだね」
太宰は隣でポケットに手を突っ込んだまま、どこか遠くを眺めて微かに笑う。
その目には相変わらず底の読めない光が揺れている。