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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第32章 定められしサークリファイス






『本編は終わりましたが、若姫の人生は終わっていません。これからも頑張ってください』

脳内に柔らかく、それでいてどこか厳かなアナスタシアの声が響く。
香織は思わず目を伏せ、胸元に手を当てて小さく頷いた。
光がふわりと消え、視界が広がる。

「空港が……」

敦が小さく息を呑む。
崩壊していたはずの空港は、まるで何事もなかったかのように元通りになっていた。
滑走路の向こうでは、旅客機が轟音を立てて空に舞い上がり、晴れ渡った青空に白い飛行機雲を描いていく。

「香織の異能で事件事態を無かったことにしたのね」

美鈴はスマホを取り出し、画面をスワイプしてニュースを確認する。
眉をひそめながらも、どこか安心したように小さく息をついた。

「ですが僕達は事件のことを覚えています……なのに……」

敦が困惑した表情で香織を見つめる。

「それはね、香織が一部の人間が覚えているようにしたんだ」

聞き覚えのある声に、香織ははっとして振り向く。
目の前に立っていたのは、柔らかく笑みを浮かべた太宰だった。
どこか揶揄うように片手をポケットに突っ込み、もう片方の手で軽く髪をかきあげている。

「太宰君!!どうして!」

香織は思わず太宰に駆け寄りかけて、足を止めた。

「君が事件を無かったことにしたのと同時に私の経歴を消したのだよ」

太宰はゆっくり香織に歩み寄り、指先で彼女の額を優しく小突いた。

「おかげで綺麗さっぱり、ね」

「そ、そうだったんだ」

異能の凄さに香織はぎこちなく言葉を返す。

「ご主人!無事ですね!?」

美鈴が太宰の横に立つ中也に気づくと、ぱっと顔を輝かせて駆け寄った。

「大丈夫だ」

「それより、手前のほうが無事に見えないが?ボロボロじゃねぇか」

中也は美鈴の肩にそっと手を置き、服のほころびを指先でつまんで確かめる。




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