【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第31章 Final Stage Ⅳ 〜絶望の先に咲く香りの花〜
「このまま世界を混乱に陥れるつもりならば私はあなたを父親として認めない」
そう言い切ると、香織はそっと息を吐き、小さく笑んだ。
「ですがこの手を取るならば最初からやり直しましょうよ」
香織は決意を宿した目でフョードルを見つめながら、その手をゆっくり差し出した。
「やり直す?」
フョードルはわずかに眉を上げ、香織の手と顔を交互に見つめる。
「降伏してもこれから大変なことがあるのは間違いないです」
香織は差し出した手を少し前に押し出し、柔らかく微笑んだ。
「それを乗り越えて本当の家族として私と一緒に生きませんか?何が間違いで何が正しいとか、私は分かりません。悪事を働いた分、人を助けることがいいと思います」
「貴女は……優し過ぎる」
フョードルはかすかに笑みを漏らし、目を伏せると香織の手を取ろうとする指先が震えた。
「そんなところがリリーに似ていますね」
「いいでしょう」
彼は小さく肩を落とし、ゆっくりと香織の手を取った。
冷たい指が香織の手に触れた瞬間、どこか諦めにも似た安堵がフョードルの表情に滲んだ。
「貴女が僕と一緒にいることを望むならばそれで……」
香織はしっかりとフョードルの手を握り返し、小さく目を伏せて微笑む。
(些細な一歩かもしれない、だけど私達はそんな些細な所から始めよう、家族として、二人っきりの血の繋がった親子として)