【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第31章 Final Stage Ⅳ 〜絶望の先に咲く香りの花〜
「ずっと思ってました。何で私を殺さないんだろうって‥‥心のどこかフェージャが父親じゃないかって……一度だけお母さんに父親は誰かって聞いたことがあるんです」
香織は遠い記憶を探るように空を見上げ、微かに笑った。
「無理して笑いながら『海を渡ったところにいる』って答えてくれました。幼かった私は仕草や言動を不思議に思っていましたが全部知った今だと分かります。お母さんはあなたを愛してたんですね」
「だからこそ理解出来ない!!何で私の周りの人達にちょっかいを出すんですか!?」
「貴女の知っての通り、リリーの人生は異能で狂わされました。異能が無かったら彼女が苦しむことは無かった。そして、貴女も異能目当てに狙われることも無かった」
(そこでこの人は『本』を求めることに‥‥)
「全て……私のためだった?」
香織は小さく俯き、掠れた声で自問する。
「全部自己満足じゃないですか、そんなのいい迷惑です!」
「今更私の前に現れたのは?この際ですから全部喋ってくださいよ」
潤んだ目で睨みつける香織に、フョードルは悲しげに微笑む。
「本当は今すぐにでも僕のところで暮らして欲しかったのですが僕は恨みを買い過ぎています。仮に貴女が僕のところに来ても、部屋に閉じ込めてしまう。自由に生きる方が貴女には似合います」
「……ですがもう、疲れました」
フョードルは伏せた目を細め、指先で軽く額を押さえた。
「リリーは帰って来ない、そして、このままでは貴女に嫌われてしまう。嫌われてしまえば生きた心地がしません」
「あなたがしてきたことは許されることではありません」
香織は真っ直ぐにフョードルを見つめ、一歩近づく。